2018年1月23日
人口減少・少子高齢化対策への先進的な取組みについて

視察の目的について

本町においては「すべての子どもと親がのびやかに育ちあえる町づくり」を、また、「高齢者が可能な限り住み慣れた地域で安心して暮らすことができる町づくり」を基本理念として子ども施策や高齢者施策を展開している。しかしながら、人口減少や少子高齢化が急激に進行するなかで子育て支援のさらなる拡充施策、高齢者の見守り、認知症施策等は喫緊の課題でありより極め細かな対応策が求められているところである。

こうした諸課題に対し、国では子育てをしやすい社会の構築を目指して平成 24 年 8 月に「子ども・子育て関連 3 法」を制定し、新たな子育て支援の仕組みを進めている。また、高齢者施策においても、地域包括ケアシステムの構築を、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要としその構築を主導している。

以上のことから、本町においても子育て・高齢者世代のニ-ズの実現を図るために、より極め細かに連続性をもった施策の展開が求められている。併せて、限りある財源の有効活用が求められていることから、これらの課題に一定の成果を得ている町の実態を研修し本町の施策に資することを目的として視察を行った。

視察先について

本町においても、人口減少や少子高齢化の諸課題に対応する施策を進めている。そこで、人口減少や少子高齢化に取り組む施策として、合計特殊出生率 2.81 を達成した町等の実情を研修することとした。「英語教育を軸とした町づくり」の岡山県和気町、「合計特殊出生率 2.81 とした町」岡山県奈義町、「高齢者の訪問事業等認知症施策に実績のある町」兵庫県太子町を視察先として選定した。

(1) 岡山県 和気町(平成 29 年 10 月 11 日 13:30~15:30 視察)

岡山県 和気町

高校卒業までの医療費、幼稚園使用料の無料化を進め、子育て世代の応援施策を展開している。また、岡山県内で 2016 年 12 月に文部科学省より町内全ての小・中学校に対し、独自カリキュラムを導入できる特例校指定を受けた。これを受け「英語特区」として、学習指導要領の枠を超えた英語教育を実施している。併せて、町内の小・中学生(小学校 5 年から中学校 3 年まで)を対象に毎週水・土曜日に無料で英語の学習ができる公営塾を開講している。「教育」を地方創生の柱に据え、子育て世代の移住促進を図っている自治体である。

岡山県の南東部、岡山市(駅))から電車で 30 分のところに位置している。人口は 14,500人、面積 144.21 ㎢、子育て環境の良さを前面に打ち出し町づくりに取り組んでいる。

【視察事項】
乳幼児医療費無料化について

医療費(自己負担分)の無料化

所得制限なし ・保険対象医療費(通院・入院)のみ ・平成 27 年 4 月 1 日からは、出生から 18 歳に達した以後最初の 3 月 31 日までとしている。就学・未就学は条件としていない。

年齢拡大の経緯は、住民から子育て世代の医療費軽減の要望があったことと子育て世代の医療費負担の軽減を図ることにより、若者の移住・定住の促進効果が期待できるとしたことである。制度改正による対象人数と医療給付費の推移を見ると約 20%の増になっている。今後の課題として、適正受診の推進、県制度対象年齢の拡大要望等を挙げられていた。

教育を軸としたまちづくりについて

人口減少を克服するため、平成 27 年 10 月に「和気町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。策定にあたり、町民アンケ-トを実施したところ「住むところを検討する際、何を重視するか。」という項目で 20 代・30 代で「教育・保育の環境」が上位だった。このことから「教育」を地方創生の柱に据え施策の展開を図ることとした。具体的には、「英語特区」として学習指導要領の枠を超えた英語教育を実施し、無料で英語の学習ができる公営塾の開講を行っている。

ふるさと教員、放課後学習支援、学校給食について

ふるさと教員

和気町の職員として、小学校教員資格を有するものを採用し「和気町の先生」として町内の小学校を中心に地域に根ざした教育活動を展開し、ふるさと学習を推進する全国唯一の専門職であり、終日学校で勤務している。

ふるさと教員の位置付けは、教員として小学校では社会科・総合的な学習の時間を支援、社会教育職員として、青少年教育・PTA活動等を担当する等、地域と学校教育と社会教育を結ぶコ-ディネ-タ-としての役割を担っている。町職員のため町外への転勤はなく地域の方と人間関係を維持・継続しながらの活動が可能となっている。

放課後学習支援

小・中学校に学習支援員を配置し、放課後等に補充的な学習指導を行っている。学習支援員は、町民や高校生ボランティアが行っており、地域ぐるみで子どもたちを応援する取り組みである。

学校給食

学校給食の食材の供給について「和気町学校給食地産地消推進協議会」を設置し事務局を町においている。供給可能な食材、供給量の確保、調理場への配送等事前調整等が図られている。平成 28 年度学校給食における地場産物使用割合は 74.1%の高い水準となっている。

(2) 岡山県 奈義町(平成 29 年 10 月 12 日 13:30~15:30 視察)

岡山県 奈義町

人口減少・少子高齢化に対し、定住促進を図るために、住宅、就労の場の確保、子育て支援策を柱とした取り組みを行っている。「奈義町子育て応援宣言」を行い、在宅育児支援手当交付事業、出産祝金交付事業等独自の子育て支援策を実施し、平成 26 年度合計特殊出生率 2.81 を達成する成果を上げている自治体である。

岡山県の東北部に位置し、北は中国山脈の那岐山、滝山の連山の分水嶺を境として鳥取県智頭町と接している。人口約 6,100 人、面積 69.52 ㎢、今後も現在の人口水準を維持するための施策に取り組んでいる。

【視察事項】
「奈義町子育て応援宣言」を行った経緯について

平成 24 年に「奈義町子育て応援宣言」を行った。奈義町に住めば子育てが安心、奈義町は子育てがしやすいまち、との声が全国に広まることを目指している。そのため、行政の役割を自覚し奈義町として子育て支援にいっそう力を入れ「子どもたちの元気な声と笑顔が溢れ子育てに喜びを実感できるまち」「家庭・地域・学校・行政みんなが手を携え地域全体で子育てをささえるまち」を目標としている。この宣言を行うことにより、子育て世代に広く心強さや安心感を与える効果を狙ったとものである。

平成26年度の合計特殊出生率は、日本トップクラスの「2.81」であったが、出生率向上に向けての具体策はどのようなものか。

医療費(自己負担分)の無料化

出生から高校までの保険診療分の医療費

在宅育児支援手当交付事業

生後 6 月から幼稚園入園前まで 児童一人月 1 万円を給付

出産祝金交付事業

第 1 子 10 万円、第 2 子 15 万円、第 3 子 20 万円、第 4 子 30 万円、第 5 子以降 40万円を給付

高等学校等就学支度金交付事業

通学費の一部助成 1 人当たり年額 9 万円 3 年間給付

幼稚園育児支援

月曜から金曜(13:30~18:00)、夏休み等(7:30~18:00)、土曜日(7:30~18:00)、6000 円/人・月(10 日未満は 300 円/人・日)

病児保育事業

平成 26 年度から開始、生後 6 月~小学校 3 年まで、個人負担金 2000 円、委託料10,000 円・奈義ファミリ-クリニックで実施

チャイルドシ-ドバンク

チャイルドシ-ト、ベビ-カ-、ベビ-ベット等の貸し出しを行なっている。当初、寄付を受けたもので開始し、若干の補充を行い実施している。

他、不育治療費助成、不妊治療費助成、保育料の減額と多子軽減、預かり保育、放課後児童クラブ、奈義町育英金貸与事業、安らぎ福祉年金等がある。手当を含め高校までの間、地域の実情に合った支援を行っていた。この支援策に充当するために事務の見直し、人件費の削減等を行うことにより財源の確保に努めたとのことである。

上記のような施策を実施することにより平成 17 年合計特殊出生率 1.41 だったものを平成 26 年には 2.81 まで引きあげることができた。平成 27 年は 2.27、平成 28 年1.85 とのことである。

若者世代の定住につながっているか

これら子育て支援策と合わせ、分譲地の整備、賃貸住宅の整備、企業誘致等の施策を行うことにより定住に繋げる取り組みを行っているとしている。

(3) 兵庫県 太子町(平成 29 年 10 月 13 日 9:30~11:30 視察)

兵庫県 太子町

太子町は、姫路や阪神地区に隣接し、通勤圏に位置するため、宅地開発が進み、大都市圏からの人口流入により、平成 24 年まで、総人口は増加傾向を示していましたが、平成25 年以後減少傾向に転じている。老齢人口の増加、年少人口の減少傾向を鑑みると緩やかに少子・高齢化が進行している状況にある自治体である。

兵庫県の南西部に位置し、東及び南は姫路市に西及び北はたつの市に隣接している。人口約 35,000 人、面積 22.61 ㎢、聖徳太子の教え「和を以って貴しとなす」からまちづくりの基本目標を「和のまち太子」と定め、住民と行政、住民同士のつながりにより、魅力的なまちづくりを進めている。

【視察事項】
高齢者福祉(介護保険事業)施策の概要について

高齢者ファミリ-サポ-トいきいき太子

ヘルパ-の数が足りず、身体介護が必要な方へシフトする必要があった。生活支援ニ-ズについて、従来ヘルパ-を利用していたが地域の支え合いや研修を受けた有償ボランティア((30 分 500 円)高齢者ファミリ-サポ-トいきいき太子)等が支えとなる体制を整備した。

活動内容は、買い物代行、掃除・洗濯・ゴミ出し等である。

家族介護慰労金

要介護 4 又は要介護 5 と判定され、過去 1 年間介護保険サ-ビスを利用していない在宅高齢者を介護している町民税非課税世帯の方に支給、支給額は年額 10 万円である。制度はあるが支給実績はないとのことである。

いきいき百歳体操

「いきいき百歳体操」は、「誰でも、どこでも、身近でできる」おもりのバンドを手首や足首に付けて行う筋力運動の体操である。

平成 26 年 10 月から 61 グル-プの立ち上げ支援を実施した。現在 59 グル-プが活動中である。この事業は県事業であり、社会福祉協議会に委託している。パイプ椅子の貸し出し、血圧計の貸し出し等行っている。

高齢者等見守りネットワ-ク事業「たいしひまわり隊」の創設

高齢者が住み慣れた自宅や地域で安心して生活を送ることができるように、見守る人、見まもられる人を特定しない形で緩やかに高齢者等の見守りを行う「高齢者見守りネットワ-ク事業「たいしひまわり(日廻り)隊」を平成 25 年 10 月下旬より始めた。この事業は、町と地域で高齢者等と接する機会のある事業所と協定を結び、日常の事業活動を通じ高齢者等に異変を感じたときに町に連絡・通報してもらう仕組みである。現在、60 事業所と協定を締結している。新聞配達、コンビニ、タクシ-会社、介護事業支所、ス-パ-等である。提携事業所には、スッテカ-を配布し車やバイクに貼ってもらっている。

認知症カフェ

認知症の人やその家族が集い、地域の人たちとも交流ができ、安らぎが得られる場所として認知症カフェを実施している。現在町内に 3 カ所あり、地域との交流を含め認知症への正しい理解を広げる場としての役割を持っている。2 カ所は予約なしで利用が可能なカフェがあり利便性を高めている

高齢者の訪問について

75、80、85、90 歳及び前年訪問で把握した要注意者で介護認定を受けていない人、いきいき百歳体操に参加していない人を 1 法人年 500 人程度訪問を委託している。委託先は、社会福祉法人で、併設している居宅介護支援事業所職員が訪問している。生活状況や身体状況、家族状況等を聞き取り必要に応じ介護保険や高齢者福祉事業の情報提供を行っている。

高齢者施策の実施に向けて社会福祉協議会との連携は

いきいき百歳体操、短期集中通所型サ-ビス、高齢者ファミリ-サポ-トいきいき太子事業を社会福祉協議会に委託する等連携をとっている。

子育て家庭ショ-トステイについて

平成 8 年 4 月~事業開始し、現在 9 施設に委託している。児童を養育している家庭の保護者が社会的な事由等により、家庭における養育が一時的に困難となった場合、施設において預かる事業である。利用状況としては、平成 20 年度 1 人 4 日、平成 28年度 3 人 4 日の実績であるが利用状況の多少に関わらず緊急時の制度として必要なものとしている。

子育て学習センタ-「のびすく」、児童館「ひまわり館」の事業概要について

子育て学習センタ-「のびすく」

子育て親子の交流、子育て相談等の活動を通して家庭や地域の子育て力の向上を目指すことを目的としている。

職員数:子育てインストラクタ-1 名、補助員 4 名

実施日時:月~金曜日 9:00~15:00

対象者:町内居住就学前の乳幼児とその保護者

実施事業:子育てグル-プの支援、子育て相談、講演会の開催等

児童館「ひまわり館」

児童に健全な遊びを与えて、健康の増進を図り、遊びを通して児童の集団的及び個別的指導を行っている。

職員数:児童厚生員 2 名、補助員 1 名

実施日時:月~金曜日 9:30~17:00

対象者:就学前の乳幼児から中学生までとその保護者

実施事業:児童館クラブ(7 グル-プ)、母親クラブ(約 100 名)が様々な活動を行なっている。

今後の施策に向けて

田村としつぐ

人口減少や少子高齢化の諸課題は、視察した和気町、奈義町、太子町においても最重要課題の施策として取り組んでいた。

町外に流出する人口の抑制と町内への人口流入を促進するための施策を「教育」、「子育て世代の支援」を軸に行っている。それぞれの町で取り組むべき課題の比重に差はあっても未来を担う子どもたちを「地域で育てる」をキ-ワ-ドとして押さえている。また、その対象年齢を「生まれてから 18 歳まで」としていることである。

生まれてから幼稚園等就学前まで、幼稚園等就学から小学校就学前まで、小学校就学から中学までそして高校までと区分し、手当等給付事業や在宅支援、入所・入園のための施設整備を行い、それぞれ子育てしやすい環境整備を図っている。実施されている事業では、高校までの医療費の無料化事業は本町においても検討すべき施策の一つである。幼稚園については、土曜日、夏休み等の期間の保育は当然のこととして実施されている。病児保育事業についても同様である。男女ともに社会参加するための条件整備を図ることが行政に求められていることを鑑みるならば当然の施策といえるものである。本町においても検討すべき重要な課題である。

「高齢者の見守り」を考えた場合、太子町の「高齢者の訪問事業」は、重要な施策の一つである。高齢者宅への訪問が個人情報の関係で一歩踏み出せない状況があるなかで訪問する根拠を介護保険に絡めて実施していることは、参考となる事例だった。

視察で研修した「子育て、高齢者施策」は、本町の施策として示唆するものが多くあった。このことから検証を進め、今後の「子育て・高齢者施策」に寄与すべきものを見極めていきたい。


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